逢魔の扉を前にして

     “初めましてのお兄様”
 



     
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先の騒動は、結果として撮影中のちょっとした混乱…で片付いたことだったが、
一歩間違えれば相当数の役者ばかりが将棋倒しとなって怪我人も出たかもしれなかった、
そんな微妙なアクシデントでもあり。

 「敦くんもだし中也も小さいんだから、
  埋もれて踏みつぶされてたら圧迫死ってことになってたかも。」
 「小せぇは余計だっ。」

大仰に懐へと入れて“よすよす”と大事そうに頭を撫でるのが、
いたわりというよりもからかいにしか見えずで、

「怒らせてどうしますか。」
「まま、将棋倒しで一番怖いのは下敷きになってしまうことなので
 間違ってはないんですが…。」

敦と芥川が先輩兄者たちのじゃれ合いへ苦笑したりして。笑
そんな最悪な一大事に至らなかったのは、とあるお人の機転と手際の良さによる。
勝手が判ってたらしき良い響きの柏手と、
凛と張ったよく通るお声と、それへと立て続いた間のいい采配が成したもので。
あんな咄嗟によくもまあ、あんな少しの手数だけで混乱を収めてしまえたものだと、
スタッフはもとより俳優陣さえ、居合わせた皆して器用だ凄腕だと褒めたたえ、
どこか客演扱いだったものが、少しずつお仲間として馴染んでいくきっかけにはなったようだ。

 「うん。さすがは兄様だ♪」

何故だか近寄りがたい様子を見せて、いやに畏まりおどおどしていた敦さえ、
まだしっかとした共演場面には至っていないながら、
とんだ窮地を救ってくれたことから、少しだけ距離が縮まったような気がしたようで。
ちょっと前までは微妙な意識のし過ぎで堅くなっていたものが、
今では打って変わっての尊敬ぶり。
どうかすると崇拝に近いそれかもしれない懐きようで、
視界の中に見つけるとパタパタと駆け寄ってしまうほどにもなっている。
妙な形で意識していたこと自体不自然な態度だったので、
良いことだと微笑ましく思っていた兄たちだったが、

 「何でかな、さりげなく避けられてる気がする。」

そこは育ちの違いというものか、
前の生では遠慮が挟まってどこか及び腰だった部分が、今生ではかなり薄れての甘えた属性。
まだまだ小柄な方なのも相まって、親しい相手へは結構スキンシップも多く、
相手の肩へ顎を乗っけたり二の腕へ掴まったりという甘えようを見せもするほどで。
よほどに懐を開いた相手でないとそこまではやらないものの、
それへの過渡期というものか、
シグマ氏にも二の腕へ触れようとしたり、甘えを吐露しかかるようになってきたらしく。
だというに、“これ以上は”とさりげなく離れられるときがあるという。
嫌がられている気配はなくて、にっこりと笑っての会釈で迎えられるものの
用があって離れるとかさりげなさも心遣いも完璧じゃああるが、
何度も向こうから離れてゆく運びが続けば、
弟属性ならではな寂しさが反応するものか、さすがに気が付きもするのだろう。
今も“そういや呼ばれていた”とそそくさと話の輪から離れてゆくすらりとした背を見送った敦は、
在れば猫耳や尻尾までうなだれさせた小動物のようなしょげようであり。
同じ会話の中に居た中也や太宰が、気にしなさんなとほぼ同時に肩に手を置いたほど。

 「欧米の人でもスキンシップが苦手な人もいるんだって。」
 「う…ん。そうそう馴れ馴れしくしちゃいけないのかなぁ。」

こんなかわいい子に懐かれたら、俺なんざ舞い上がるがなと、
肩においてた手をもっと延長させて首根っこをまるっと抱き込む中也なのへ、
何とか笑って見せるものの、

「思えば、ボクには、中也さんや太宰さん、龍くんが、
 すぐ前の生での知り合いだったということのほかに、
 異世界でも縁のあった人たちだったっていう記憶まであって。」

この『逢魔の扉』という作品へのかかわりがきっかけで、
フィクションなはずの異世界次元での関わり合いまでもが、
そうと呼んでいいものか “現行”のものであったらしいということも判明。
中也ら他の顔ぶれにとっては自身の前世とまでの把握はないようだったが、
一人だけ記憶に封をされたままだった敦が思い出せたのも、
彼にはそういうおまけがあったればのことだったらしく。
以前の騒動のおかげさま、つながりはあるらしいとの理解は出来たようであり。

 「でも、兄様はそうはいかないってことなんだろなって。」

それこそ異能力を持ってた“前世”のことさえ知らないままらしいのであり。
それだけややこしい記憶持ちなんだなぁと、小さな肩をしょんぼりとおとしてしまう。
これまではこちらが、遠慮なのか怖がってか距離を取ってたくせに…と思えば現金なものだが、
それでも人懐っこいお人に見えていたのにと思えば、
兄みたいなのにという想いも重なってなんだか気になるのも無理はない。

 「迷惑そうではないんだよね。」

そこは周囲にだって拾える機微で、
敦自身へは愛おしむよな顔をしている彼なのもようよう届く。
敦と同じベクトルのそれとはさすがに違うのだろうけれど、
屈託のない会話や笑顔へしっかり視線をやっているし、
可愛らしい共演者として大事にしたいというのもありありしており。
ただ、ふと何かを思い出したように表情が曇って
そのまま離れてゆくのは確かにおかしい態度でもあって。

 「まあ、こういうことはお兄さんたちに任せなさい。」

末弟(?)が慣れない困りごとで煩悶しているらしいのは判りやすすぎるので、
兄たちがあっさりと探りを入れてくれているらしく。

 「???」

太宰の言いようへ きょとんとしつつも凭れてくる虎の子くんへ、
柔らかな銀の髪を梳いてやりつつ、やはりにやりと笑った元鵺さんだったりするのである。




     ◇◇


「〜〜〜。」
「? 〜〜〜っていいのかよ。」

使われていない控え室。
外国語が時折混ざるので多少誰ぞに聞かれても判るまいとでも思うのか。
時折感情的な…ひそめられない尖った声が漏れており。
英語じゃなきゃあ大丈夫と油断しまくっているようだが、

 “こちとらフランス語やラテン語の歌劇なんぞにも接してるんだがなぁ”

との苦笑が絶えない面々が、顔を見合わせると…さあいよいよとの行動に出る。

 「あ、こんなところにいらした。」

偶然通りかかったようなあっけらかんとした様子でドアを開け、
はっとして思わずその身がすくんだ彼へと声をかけ、
屈託ない様子で駆け寄った敦なのへ、

「ちっ。」

忌々しいと言わんばかり、険ばかり目立つ顔をゆがませ、
舌打ちして出てゆく男を引き留めるでもなく黙って見送った彼だったが。
姿が見えなくなった途端に、いかにもあかんべえをしたそうな顔になった敦と、
一応は同行していた芥川のやはり辛辣そうな表情を
やや元気も覇気も無さげなお顔で見やったそのまま、

「見かねて助けてくれたんだね。ありがとう。」

覇気のないまま謝辞を述べたシグマさんであり。
それへは表情も改めて振り返ってきた芥川や、案じるように見上げてきた敦なのへ、
ゆるゆるとかぶりを振ってみせる。

「けれど、君は…君らは関わらない方がいい。
 あいつはいろんなところを渡り歩いて悪さし続けているクズだから、
 顔を覚えられても剣呑だろう。」

そうと言って躱そうとするのは、
やはり彼らを何かから庇ってくれようとしてのことなようで。
素っ気ない態度になったのはという素因も把握済みだからだろう、

 「大丈夫ですよ。」

ムキにもならず怯みもせず、にっこり笑った敦に続き、

 「そうそう、こんな小者へ案じる必要なんてない。」

そんな声が室内へと割り込んだ。
不意打ちもいいところで、ギョッとしたシグマだったが、
閉じられたはずのドアがそれは滑らかに再び開いて、


退出したはずの男の方をがっちりとホールドして連れ戻したのが中也と太宰。
特に乱暴な扱いではないながら、コツをようようご存じか、
もがけば手首でも締まるらしくて苦々しい顔になっており。
そんな男をとんと部屋の中へ突き飛ばして、逃げちゃあダメだよとにやにやと笑いかけ、

『海外の現場を渡り歩いているとかどうとか、大きいバックがいると匂わせているが、
 実のところ、大したメンツはいないよな。』
『ああ。』

先程まで彼が駆使していたフランス語にての会話を持ち掛ける。
誰かが通りすがってもこれならなるほど何話しているものか判らないよねぇとにやにや笑いつつで、
ちょっとほどそこまで堪能ではないらしき敦にはスマホでの翻訳を通すことにして。



 to be continued.(26.08.21.〜)





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 *どうにも長さが調整できなくて、
  微妙な感じになっちゃいましたが、
  ああそういう…とほのかに匂わせての、続いてすいませんです。